人生に 最も注意すべきことは 得意の時に 一しお心の備えを 緩めぬよう心が
けることである。
(事実において、人々の多くはとかくこうした大切なことを案外軽視する傾向があ
る。そして得意感を心が感得した際は、たいていの人がたちまち有頂天になって、そ
の結果として心の備えを緩めがちである。そして心の備えを緩めると、それから因由
的に運命や健康上に、往々にして軽視することのできない破綻をひき起こすことが、
事実的にすこぶる多い。ところが、それを少しもそうかと自覚せず、むしろ当然のよ
うに思って何ら反省もしない人が少なくない。それでは、その心の備えを緩めるとい
うのは、そもそもどんなことかというと、要言すれば心の自律的統御をおろそかにす
ることなのである。
どんなとき、どんなことにもいささかも動揺せぬ心、いいかえると、いかなる場合
にも、
怯(お)じず、怖れず、急がず、焦らず、いつも淡々として極めて落ちついている心
である。これをもっと適切な言葉でいえば、「何事もないときの心と同様の心の状
態」である。あの古い句で有名な「湯上りの気持ちを欲しや常日頃」 の心持であ
る。)
「得意淡然、失意泰然」