第一節 「心」とは何ぞや?
さて諸君は前章に於いて既に「自我の本質」というものを概念的に理解された。同
時に真我=本当の自己 というものがこれ又判然された事と信ずる。
そしてその結果、心や肉体というものは、真我の生命の活きるために必要とする諸
般の方便を行う生命用具であるという事も了知されたと思惟する。
が然し、およそこの種の理解というものは、ただこれを理論的に会得したというだ
けでは、かりそめにも人生を有意義に活きんと欲するものは未だしなのである。
即ち要約すれば、如上の一切を信念的に自覚しなければ、折角の理解が完全な結果
を到底人生に招来しないという遺憾な事になる。
それならば、これを信念的に自覚するにはどうすればよいかというに、即ち心によ
りもっと一段進んだ実際的修養というものを施さなければ、到底所期の目的を達成す
ることは出来ない。
この実際的修養のことを、哲学的にいえば「悟入自覚の修養」と称する。
そこで、この悟入自覚の修養を現実に具体化するために、更に人間の心に関する重
要な理解と消息と、そしてその心を如何なる法則と手段の下に訓練啓発すべきかとい
う貴重な人生事業の要諦に論及する事とする。