それでは大脳とは何か? というに、要約すれば、精神活動を表現化する一機関な
のである。分かり易くいえば、心の働きを形に表す要具なのである。やや第二義的で
はあるが、丁度それは画家の絵筆と同様のものだといえる。
絵筆は画家の芸術を表現化する貴重な要具ではあるが、画家そのものではない。こ
れと同様に、大脳は心の微妙な働きを表現する大切な一機関ではあるが、心そのもの
ではない。
また仮に百歩を譲って、一派の科学的見解をもった人に加担して、心即ち大脳なり
とするとして、更に慎重に考えなければならぬ実際問題は、では大脳は肉体の一部分
であるから、先ず体を強化することを先決するとして、肉体を何らかの手段で強くし
得るとしても、果たしてこれと並行して大脳までも、実際的に強くでき得るかという
ことである。
また、これも仮に大脳が、体の強さに比例して強くし得るものとしても、当然心ま
で強くなるかということについては、頗る疑いを感じない訳に行かない。というの
は、議論でなく、論より証拠の事実に徴して考査して見ると、一番明瞭に分明する。