完全な自己統御の要訣である意志集中を現実化するのに必要とする精神統一という
ものの根本条件を為す観念の統合に重要な有意注意力の訓練ということに就いては、
これまた相当いろいろの方法が心理学者や精神科学者に依って説示されているようで
あるが、その何れも繁忙な実生活に携わる人々には余りに形式的で到底その煩に堪え
得ぬものが多く、従って兎角永続性に欠けているものが多いのも事実である。そこで
私は最もその方便の容易なものとして日常多忙な人生生活を行いながらこの目的を安
易に達成し得る特殊の方法を述べる事とする。
先ず第一に理解せねばならぬ事は、日常人生生活を行う際に、特定的の心がけを決
定する必要があるという事である。というのは由来注意というものは興味という事と
恒に相対関係があるものなので、即ち興味の伴うものには求めずとも注意を相当永く
振り向け得られるが、そうでないものには普通の場合どうしても注意の注がれる力の
程度が弱いものなのである。これは多くいうまでもなく興味というものが、注意を自
然的に喚起する力を有して居るからなのである。現になによりの証拠には、興味を感
ずる演劇とかまたは書籍などは大して疲労もせず又倦怠感も覚えず、粘り強い注意が
相当長時間永続的に振り向けられる。然し反対に興味の薄いものであると、忽ち倦怠
を感じて注意は短時間で直ちに分裂し始める。
要するに有意注意の訓練には、この真理と事実とを如実に応用するのが最も捷径な
のである。即ち何事に対しても、先ず第一に物そのものの中から何かの興味を見出す
か、又は特に興味を自己自身作り出すかの、その何れかの方法を採るという事を心が
けるのである。勿論この方法は当初の間は多少の忍耐と努力とを必要とするには相違
ないが、俗にいう「成ろうより慣れろ」で少し習慣がつくと、どんな事でも又どんな
ものの中からでも自己の注意を喚起するような興味ある事実を見出し、もしくは自身
作り出す事が容易に出来るようになるものである。